かつて、これほど濃密で熱く、職人を語り合った対談はあったでしょうか? いえ、到底あるとは思えません。 なにしろ、ただでさえ数寄な著者ふたりが、無垢な子供のように無我夢中で語り尽くした、複数の大手出版社ですら避けて通ったほど、「専門知識満載」「知る人ぞ知る」という内容なのですから。 が、しかし、それでも、世に送り出す価値は確かにあると思うのです。そう、絶対にあるはずです。 専門知識がまったくなくとも、職人が「いかに尋常でない超絶技巧を身に着けていたか」「常識はずれとも言えるくらいに仁義や恥を重んじた粋な人たちであったか」など、それらのエピソードは、誰にでも十分読み応えあるものですし、いずれも大きく感銘を受けるに違いないでしょう。 効率化の荒波にさらされて、いくら技術は廃れていくとしても、仁義や恥、美意識まで手放す必要はありません。 今まさに、日本人の掌からこぼれ落ちつつある「なにか」を掬い上げるためのひとつの方法論が、この対談本で語られる「職人道徳」に内包されているのです。 序盤の斬り結ぶような緊張感のある問答から、終盤へ向かって胸襟を開いてゆく軽妙な会話がいたく魅力的な本書は、間違いなく、対談本でありがちな「予定調和」「暗黙の了解」がない、自信を持っておすすめできる一冊です。 「身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ」のお気持ちで、ぜひ手に取っていただければとても嬉しく思います。
- 目次
- はじめに
- 仕事道具に触るのは感覚が育ってから
- 道具鍛冶の名工・千代鶴是秀の修行はじめ
- 「お前が本で学んだ事ではない、お前の一言を言ってみよ」
- 職人の「恥」
- 職人の思い入れと伝統
- 重い火床を片手でヒョイッ(玄能鍛冶・長谷川幸三郎)
- 職人と素人の違い
- 「こいつなら、いけるかもしれない」
- 手裏剣術が玄能作りのヒントに?!
- 墨掛け粗掘り五分(鉋台屋・伊藤宗一郎)
- 理想的な鉋台
- 名人大工と名人鍛冶の職人仁義合戦
- 野村貞夫棟梁の美意識
- マサカリ遣いとゴルフのフォーム
- 息の根を止められた鋸鍛治
- 職人の「老い」
- これからの職人の生き方
- 本当の名刀とは
- 職人の仁義
- 土田一郎、千代鶴是秀に出会う
- 清忠問答
- 穴大工の玄能の柄
- 「名工」たる所以
- 【追記対談】授業科目は、国語と歴史と体育だけ
- あとがき
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- 刊行日
- 2019年12月中旬
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- 判型
- 四六判上製
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定価- 本体2,000円+税
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- ページ数
- 288ページ(予定)
平尾文(ひらお あや)
1987年、香川生まれ。
2011年、神戸女学院大学文学部を卒業後、大学事務職員、法律事務職員を経て、フリーランスライターへ。
武術家やスポーツ選手、音楽家、職人など、身体に関わる技芸の深奥を広く紹介するライターを目指している。
これまで携わった作品に、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、『できない理由は、その頑張りと努力にあった』(甲野善紀氏/PHP研究所)、『ヒモトレ革命』(甲野善紀氏と小関勲氏共著/日貿出版社)などがある。
ムシカゴグラフィクス
2004年、東京・神楽坂にて創業したデザイン事務所。
文芸書・実用書・児童書をはじめとするブックデザイン、および様々なジャンルの雑誌・広告・WEBサイトを手がけるクリエーター集団。
第19回読売新聞出版広告賞銀賞受賞。
異能の著者ふたりが、心ゆくまで語り明かした対談本の行く末はいかに? 出版史上、空前絶後の不況下で、起業してまで刊行を決めたこの企画――果たして無事に書籍化でき、世に産み落とされるのでしょうか。 いくつかの大手出版社が刊行をためらったという、圧倒的熱量の中身とは一体? 乞う、ご期待!